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躁鬱病(BPⅡ)トウビョウブログ
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 8月7日号のアエラに「辺見庸は沈黙せず ひとり、地をはう抵抗」という記事が載っている。インド料理屋で読んでいたんだけれど、興奮してしまって急いで家に戻った。

 元々、3月に出版された辺見の「自分自身への審問」(毎日新聞社)から、大きな示唆を受けていた。審問によれば、辺見は04年3月、講演中に脳出血で倒れ、半身が不自由になり、記銘に障害が生じた。医師からは”知的職業”への復帰は難しいかも知れないと仄めかされた。癌まで見つかった。そんななかで病室にパソコンを持ち込み、ときには医師や看護師から隠れるようにして、左手で「ポツリポツリ」と原稿を打った。
 その審問を、わたしもまた病室で読んだ。そのときのわたしを最もとらえたのは「<見る>という不遜」という項だった。三つの病院での、4カ月にわたる入院生活で感じ続けた「居心地の悪さ」。辺見はそれが、医師やセラピストの<見る>が<見られる>ぼくの<見る>を想定していなかったことにある、と振り返っていた。「自他の哀しみの奥行きと抗いがたい無力を思い知らされたぼくの視線と医師たちの職業的視線は、ごく少ない例外を除けば、重なることも交差することもありませんでした」
 最初はこのくだりを、医師や看護師らへの正鵠を得た告発としてだけ読んだ。でも、次の瞬間、同じ問いが自分自身に返ってきた。わたしもまた、精神病院(最近は精神「科」病院と表記することにしたそうだ)にあって、自分を<見る>側に分類してはいなかったか。わたしが不遜に感じた医師たちと同じような視線で、わたし自身も他の患者を<見て>はいなかったか。彼らから<見られる>自分を想定していたか。そして、たとえばここにも書いたことのあるSが、10年以上を過ごした精神病院を出て、わたしを含めた見る側の人間の欺瞞を撃ってくれる日が来ることを夢想したのだった。

 辺見自身、職業で分類するなら、今も昔も見る側の人間である。彼は元々<見る者は見られない>と信じて疑わないような関係性を不遜に感じていた、と書いている。それでもやはり以前は見るだけの側に属していたのではないかと思う。それは、倒れて初めて「健常であることと暴力の関係」を思い知った、としているところからも読み取れる。
 辺見は「拳を避けることも逃げることもできない躯になってしまったこと」を「否応ない劣性の自覚」と表現したうえで、こう記している。「大袈裟にいえば、いままで生きていて最も大きい思想的(あるいは詩的)変化が起きているともいえます」「他者を制するということを、たとえどんな形であれ前提しなくなりましたから。制したい、制することができる、と思わないのは断然よいことのような気がします」
 これは一種の覚醒と呼んでいいと思う。そして、わたしは鬱屈を迫られる病院のベッドのうえで、この覚醒の可能性に大きな希望を見いだした。

 「自ら処決して形骸を断ずる」と書き残し、自死したのは江藤淳だった。審問のなかで辺見は、この最期を批判するわけではなく、遺書の「形骸」という言葉にこだわった。少なくとも当時の辺見は、自殺を「まるで習慣のように考え、考えあぐねている」立場だった。金物屋で七輪と練炭とガムテープを買った、とも告白している。しかし、そうしながら「形骸に過ぎないこととは、果たして恥辱なのか辱めなのか」「健常この上ない人間の形骸化とそれゆえの恥辱だってありはしないか」と執拗に問うた。
 アエラでは、6月末に講演に立った辺見の写真に「病める身としての潜思を通じて『生きている限り形骸なんてありえない』という結論に達した」というキャプションが添えてあった。講演で辺見は「最後まで言い続けて、ゴロゴロ転がってもその目で見えることを書きたいと思う」と述べたという。審問を読んで、地を這うようになっても「その目」に見えてくる新しいものがあると信じられるようになったからこそ、わたしは辺見の姿に誰から何を言われるより大きな励ましを感じるのだろう。
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