長い夜

　寂しいなあ、と呟いてみると、もっと寂しくなる。夜、目が覚めて眠れなくなると、寂しくなる。それで、いろんなひとに電話したくなる。でも、みんな眠そうだったり、眠っているだろうからかけられなかったりする。それで、ますます寂しくなる。誰かがそばにいてくれたらいいのにと思っても、みんなもう子どもじゃないから、そんなお願いをやすやすと聞いてくれるひとなんか見付からない。ベッドのうえに横たわって、携帯電話のカメラの画面で部屋を映してみると、見慣れた部屋がまるで別の部屋みたいに見える。わたしの今夜の寂しさを携帯カメラで切り取ってみる。その作業は、でも、なかなか上手くいかない。切っても切っても、切り取り切れない。薬で寂しさを閉じこめることに、反抗したくなることもある。病気によって、予め失われることになった＜可能性＞への未練が、頭をもたげてくる。久しぶりの希死念慮が、わたしを襲う。そういう気持ちと、ときにはきちんと対峙しなくてはならないんだと、自分に言う。長い夜を失うことは、生きていくうえで大きな損失になるはずなんだからと、自分に言う。